君がいつまでも敗者でいる理由

磨く

この記事の要約

前回、「自信は持てなくていい、余裕を持て、余裕を持つ為に自分の価値を高めろ」と書いた。今回はその続きで、じゃあ何を磨けば「価値」が上がるのかという話をする。

先に結論を言う。モテる為の価値と言われて年収・外見・学歴といったスペックを思い浮かべたなら、それこそが君がモテない理由だ。

スペックは商品で言えば「機能」だ。そして人は機能を求めていない。機能がもたらす「便益」を求めている

さらに、選ばれ続けるためには便益に加えて「特異性」—替えの効かなさ—が要る。その特異性の源泉は、スペック(What)ではなく、自分の価値観(Why)だ。

スペックを磨いてアピールする戦い方は、他人との比較レースに自分から参加する行為で、このレースには必ず負ける日が来る。美人を前に怯むとき、君が戦っているのは目の前の彼女ではなく、頭の中で勝手に作り上げた架空のハイスペック男だ。そんなレースからは、とっとと降りよう。

目次


1. 前回の復習:磨けば余裕が生まれる。では「価値」とは何か

前回の記事で、僕はこう書いた。

自信は持てなくていい。代わりに自分を磨いて「持っている」状態を作れば、執着が薄れて余裕が生まれる。それは人から見れば自信と区別がつかない。自分を磨いていれば人は寄ってくる。

その中に、女性も多分入ってると。

あの記事は「何をすればいいか(What)」の話だった。今回はその一段深く、「どういう原理でそれが効くのか」の話をする。つまり、自分というproduct(商品)の”価値”とは、そもそも何で決まるのかという話だ。

ここを理解せずに自分磨きを始めると、高確率で罠にハマる。

実際、僕はハマった。磨く方向を間違えると、努力すればするほど消耗する、終わりのないレースに参加することになる。まずはその罠から解説したい。

2. 人はスペックを求めていない|機能と便益の違い

質問から始めよう。もし君が自分を異性に売り込むとしたら、何を伝えるだろうか。

年収、外見、学歴、語学やスポーツといった特技……一般的にはこんなところだと思う。一般的に自分磨きと言う時、それは大抵の場合収入と外見に帰結する。

ここで、マーケティングの超基本の話をする。マーケティングの世界では、商品の「機能」と「便益」を厳密に区別する。

  • 機能:商品が持っているスペックそのもの。(例:このドリルの回転数は毎分3,000回転です)
  • 便益:その機能が、相手の生活にもたらす良いこと。(例:固い壁にも一瞬で穴が開くので、日曜大工が楽になります)

マーケティングに「ドリルを買う人が欲しいのはドリルではなく穴だ」という有名な格言がある。人は機能そのものにお金を払っているのではない。機能がもたらす便益に払っている。

さて、さっきのリストに戻ろう。年収・外見・学歴・特技。これらは全部、機能だ。

もし君がこういった要素を心の拠り所にしている、あるいは「これさえ身につければモテる」と思っているなら、一度立ち止まってほしい。相手が欲しいのはドリルではなく穴だ。スペックそのものを求めている人は、いない。

これを端的に表した言葉にスティーブ・ジョブズが言ったとされる有名な逸話がある(出典が確かではないので「とされる」に留めておくが、話の中身が本質を突いているので紹介したい)。

女性を口説くとき、ライバルがバラを10本贈ったら、君は15本贈るのかい? そう思った時点で負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを見極めることが重要なんだ。

バラの本数—つまりスペックで張り合うのではなく、相手が本当に望んでいるものを捉えろ、という話だ。これはマーケティングで言う「顧客起点」の考え方そのもので、機能の積み増し競争から一歩引いて、ニーズから逆算しろということでもある。

じゃあ、恋愛において相手が本当に望んでいる便益とは何か。前回の記事で書いた通り、僕の仮説は「安心」だ。年収という機能が効くとしたら、それは数字そのものではなく「この人といれば生活の不安が減りそう」という便益に変換されたときだけ。

外見が効くのも、清潔感が「この人はちゃんとしていそう」という安心に変換されるからだ。

機能は、便益に変換されて初めて価値になる。 変換されないスペックは、スペック表の中で眠っているだけだ。これが第一の原理。

3. productの価値は「便益性×特異性」で決まる

ただし、便益があるだけでは、まだ足りない。

マーケティングでは、productの価値は大きく2つの軸で決まると考える。

  • 便益性:その商品が相手にどんな良いことをもたらすか
  • 特異性(独自性):それが他の商品では替えが効かないか

この2軸で4象限のマトリクスを作ると、商品の立ち位置が見える。

 特異性が低い特異性が高い
便益性が高いコモディティ(比較され、価格競争に巻き込まれる)ブランド(指名で選ばれ続ける)
便益性が低い存在価値なしただの変わり者(ギミック)

わかりやすい例がiPhoneだ。スペック表だけ見れば、同じ価格でもっと高性能なAndroid端末はいくらでもある。それでもiPhoneが指名買いされ続けるのは、便益性が高い(ちゃんと使いやすい)上に、特異性が高い(Appleの世界観はAppleでしか買えない)からだ。右上の象限。これがブランドだ。

恋愛に翻訳するとこうなる。

  • 便益性だけ高い男:「いい人なんだけどね」で終わる。優しくて気が利くのに選ばれない男は、左上のコモディティだ。もっと年収が高い”いい人”、もっと背が高い”いい人”が現れたら、比較されて負ける。
  • 特異性だけ高い男:「面白い人だけど、付き合うのはちょっと」。右下のギミックだ。
  • 選ばれ続けるのは右上:便益性と特異性が両方高い、ブランド化された男だ。「他の誰かじゃなくて、この人がいい」と思われる状態。

婚活市場で年収や身長を比較されて疲弊する構図は、まさにコモディティが価格競争に巻き込まれている姿そのものだ。スペック(機能)を磨くだけの自分磨きが罠だというのは、これが理由だ。機能の積み増しは、便益に変換されなければ無価値だし、変換されたとしても特異性がなければ、より高機能な他人との比較レースに放り込まれるだけなのだ。

では、特異性はどうやって手に入るのか。ここからがこの記事の本丸だ。

4. 特異性はどこから来るのか|ゴールデンサークルとWhy

マーケティングの世界に「ゴールデンサークル」という有名なフレームワークがある。サイモン・シネックが提唱したもので、人や組織の語ることを3つの階層に分ける。

  • What:何をやっているか
  • How:どうやってやるか
  • Why:なぜやるのか(信念・価値観)

シネックの主張はシンプルだ。凡庸な組織はWhatから語り、人を動かすブランドはWhyから語る。

世界的に成功しているブランドを見ると、たしかにこの構造になっている。

  • アップルは「コンピュータ」を売っているのではなく、「革新」を売っている
  • ナイキは「シューズ」を売っているのではなく、「挑戦」を売っている
  • テスラは「自動車」を売っているのではなく、「未来」を売っている

コンピュータもシューズも自動車も、機能(What)だけならもっと安くて高性能な代替品がある。それでもこれらのブランドが特異なのは、Whyに共鳴したファンがついているからだ。特異性の源泉は、WhatではなくWhyにある。 機能はコピーできるが、信念はコピーできないからだ。

機能的な繋がりは同一の機能を持つ競合に乗り換えられる可能性があるが情緒的な繋がりは乗り換えられるリスクが下がる。ブランドも個人も一つか一人しかいないからだ。

さて、ここで面白いことに気づく。モテない人は、この法則を綺麗に逆走している。

モテない人の思考回路:

  • WHAT:モテるためにどんなスペックが必要か?
  • HOW:そのスペックをどうやってアピールするか?
  • WHY:(ここまで考えが及ばない)

心当たりはないだろうか。僕はあった。年収が上がれば勝手にモテると思っていた。お洒落にしていればモテると思っていた、格好良い所を見せれば——What、What、Whatだ。

自分が何を大事にして生きているのか相手が何を大事にしているのか(Why)は、一度も考えたことがなかった。とんだ一人相撲だ。

Whatから積み上げた男は、どれだけスペックが立派でも、スペック表つきのコモディティにしかならない。Whyのない男に、特異性は宿らない。

5. What思考の末路|競争にはいつか必ず負ける

What思考の何がまずいのか。決定的な事実を一つ伝えたい。

スペック勝負は、他人との競争だ。そして競争に参加し続ける限り、必ず負ける日が来る。

年収で戦えば、上には上がいる。外見で戦えば、上には上がいる。学歴も、身長も、話の面白さすら、どんな分野にも必ず上位互換が現れる。これは悲観論ではなく、ただの構造の話だ。相対評価のレースは必ず優劣がつく、そして参加費として自尊心を払い続けることになる。

前回の記事で「余裕とは執着しないこと」だと書いたが、What思考はこの逆をやっている。比較のレースに参加すれば結果に執着せずにはいられない。勝っても勝っても次の対戦相手が現れる。これでは余裕など生まれるはずがない。

6. 美人に怯むとき、君は何と戦っているのか

このWhat思考、つまり比較のレースに参加し続ける事の害が、一番わかりやすく表れる場面がある。

君は、どんな美人を前にしても怯まないと言えるだろうか。美人でなくても家柄や学歴、収入なんでもいい。ハイスペックな女性を目の前にして、いつも通りでいられるだろうか。

この記事をここまで読んでる人にそんな人はいないのでは無いかと思う。自分もそうだった。ハイスペックな美人を前にすると大抵の場合怯んでしまう。値踏みされているような気がして居心地が悪くなる。

でも、あるとき気づいた。よく考えると、おかしいのだ。彼女は僕に何もしていない。 ただそこにいるだけだ。じゃあ僕は一体、何に怯えていたのか。

答えはこうだ。「この人はきっと、今までさぞハイスペックな男たちと付き合ってきたんだろうな」と勝手に想像して、その架空のハイスペック男たちと自分を比べて、勝手に負けていたのである。

冷静に文字にすると、かなり滑稽だ。実在するかもわからない男と、脳内で開催したスペック比較レースに、単独でエントリーして、単独で敗退している。目の前の彼女は、そんなレースの開催すら知らない。

これがWhat思考の正体だ。スペックという物差ししか持っていないから、あらゆる場面が自動的にスペック比較の場に見える。そして比較である以上、想像の中にすら上位互換が現れて、勝手に負ける。

だから、言いたいことは一つだ。

そのレースに参加しているのは、君だけだ。とっとと降りよう。

レースから降りるというのは、諦めるという意味ではない。比較という土俵そのものから出る、ということだ。そして比較の外に出る唯一の方法が、前章までに書いた「特異性」—Why—を持つことなのだ。「他の男より上か下か」ではなく「この人はこういう人」という、そもそも順位のつかない存在になる。ブランドが価格比較サイトに並ばないのと同じ理屈だ。

7. Whyから始める|ニーズを汲むことと、顔色を伺うことは違う

じゃあ、Whyを持つとはどういうことか。

難しく考えなくていい。自分は何が好きで、何を大事にして、どう生きたいのか。「軸」を持つ事だ、行動原理と言ってもいい。それを自分の言葉で言えて、日々の選択がそれと繋がっている状態。それだけだ。前回の記事の言葉で言えば、「昨日の自分よりちょっとマシになりたい」も、立派なWhyだ。

ここで、ブランディングの観点から一つ重要なことを付け加えたい。

愛されるブランドは、顧客に媚びない。 アップルは顧客アンケートの多数決でiPhoneを作ったわけではない。自分たちのWhy(革新)を貫いた結果、それに共鳴する人が集まった。人も同じで、相手に合わせて自分を曲げ続ける男は、一見「優しい」が、Whyが見えないので特異性がゼロになる。要は、コモディティ化する。

ただし、ここで絶対に誤解してほしくないことがある。「ニーズを汲む」と「顔色を伺う」は全くの別物だ。

  • ニーズを汲む:相手が何を求めているかを深く理解した上で、自分の価値観で応える
  • 顔色を伺う:自分の価値観を捨てて、相手の機嫌に合わせる

ジョブズの逸話(とされる話)を思い出してほしい。「その女性が本当に何を望んでいるのかを見極めろ」——これはニーズを汲めという話であって、女性の言いなりになれという話ではない。優れたブランドは顧客を世界一深く理解している。理解した上で、媚びずに自分の答えを出す。だから信頼される。

デートで言えば、相手の好みをちゃんとリサーチした上で、「ここ、絶対好きだと思って選んだ」と自分の意思で店を決める。これがニーズを汲むということだ。「どこでもいいよ、〇〇ちゃんの行きたいところで」は、優しさではなくWhyの放棄であり、相手からすれば「この人といても安心できない」というシグナルになる。

Whyを貫くことと、相手を深く理解すること。この2つは矛盾しない。むしろセットで初めてブランドになる。

ちなみに、この「顧客を深く理解する」という考え方を本格的に知りたい人には、マーケター西口一希さんの『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』が名著だ。ゴールデンサークルの原典なら、サイモン・シネック『WHYから始めよ!』。どちらも仕事にそのまま効く本なので、興味があればどうぞ。

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8. まとめ:磨くべきは機能ではなく、便益と特異性

長くなったので、要点をまとめる。

  • 年収・外見・学歴といったスペックは、商品で言う「機能」。人は機能を求めていない。機能がもたらす便益(恋愛においては、その筆頭が「安心」)を求めている
  • productの価値は「便益性×特異性」で決まる。便益性だけだと「いい人止まり」のコモディティになり、比較レースで消耗する
  • 特異性の源泉は、スペック(What)ではなく価値観(Why)。機能はコピーできるが、信念はコピーできない
  • What思考のレースには必ず負ける日が来る。美人に怯む正体は、架空のハイスペック男との脳内レース。参加しているのは君だけだ。降りよう
  • Whyを貫くことと相手のニーズを深く汲むことは矛盾しない。媚びずに、深く理解する。 それがブランドだ

前回と今回で、このサイトの理論の土台は揃った。自分を磨いて「持っている」状態を作れば余裕が生まれる(前回)。ただし磨く方向は機能の積み増しではなく、便益と特異性(今回)。

次からはいよいよ各論だ。見た目、コミュニケーション、場の設計——それぞれの変数で「便益にどう変換するか」を具体的に扱っていく。

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