マッチングアプリを始めて1年。マッチはするのに、メッセージは3通で途切れる。「モテない 理由」で検索すると、清潔感がない、自信がない、自分の話ばかりする、といった欠点のリストが並ぶ。一つずつ潰してきたはずなのに、結果は変わらない。あなたが今いるのは、そういう場所ではないだろうか。
先に結論を言う。あなたがモテない理由は、内面の欠点ではない。磨く方向がズレている事だ。 年収・外見・学歴といったスペックは、商品で言えば「機能」にすぎない。相手が求めているのは機能ではなく、それがもたらす「便益」だ。機能を磨き続ける限り、あなたは他人との比較レースから抜け出せない。
僕は37歳、マーケティング職の会社員だ。メーカーでの原価構造分析、EC企業の売上責任者、複数事業の経営コンサル。商品が選ばれる理由と選ばれない理由を、10年以上分解してきた。そして恋愛では、年収が上がれば勝手にモテると思っていた人間でもある。
モテない理由を扱う記事の多くは、原因を内面の問題として片付ける。この記事では、商品が売れない理由を診断するやり方で、あなたが選ばれない理由を分解する。読み終えれば、何を磨けば「価値」が上がるのかが分かり、誰かと比べて勝手に落ち込む場所から出られる。
- 年収・外見を磨いてもモテない理由:「機能」と「便益」の取り違え
- 選ばれ続ける男の条件「便益性×特異性」と、いい人止まりの正体
- 美人を前に怯む本当の理由と、比較のレースから降りる方法
美人を前にすると、なぜ怯むのか
あなたは、どんな美人を前にしても怯まないと言えるだろうか。美人でなくてもいい。家柄、学歴、収入。ハイスペックな女性を目の前にして、いつも通りでいられるだろうか。
僕は無理だった。ハイスペックな美人を前にすると、大抵の場合怯んでしまう。値踏みされているような気がして、居心地が悪くなる。会話がぎこちなくなり、普段なら言わないような自慢話が口をつく。
でも、あるとき気づいた。よく考えると、おかしいのだ。彼女は僕に何もしていない。 ただそこにいるだけだ。じゃあ僕は一体、何に怯えていたのか。
答えは記事の後半で出す。先に言っておくと、原因は僕の内面の弱さではなかった。磨く方向と、戦う場所を間違えていた。 それが分かったのは、仕事で毎日やっている「商品が売れない理由の診断」を、自分に当てはめたときだった。
年収・外見・学歴は「機能」にすぎない
もしあなたが自分を異性に売り込むとしたら、何を伝えるだろうか。年収、外見、学歴、語学やスポーツといった特技。世の中で「自分磨き」と言うとき、それは大抵、収入と外見に行き着く。
ここで、マーケティングの超基本の話をする。マーケティングの世界では、商品の「機能」と「便益」を厳密に区別する。
- 機能:商品が持っているスペックそのもの(例:このドリルの回転数は毎分3,000回転です)
- 便益:その機能が、相手の生活にもたらす良い事(例:固い壁にも一瞬で穴が開くので、日曜大工が楽になります)
マーケティングには「ドリルを買う人が欲しいのはドリルではなく穴だ」という有名な格言がある。人は機能そのものにお金を払っているのではない。機能がもたらす便益に払っている。
さっきのリストに戻ろう。年収・外見・学歴・特技。これらは全部、機能だ。相手が欲しいのはドリルではなく穴で、スペックそのものを求めている人は、いない。
これを端的に表した、スティーブ・ジョブズが言ったとされる逸話がある(出典が確かではないので「とされる」に留めておくが、話の中身が本質を突いているので紹介したい)。
女性を口説くとき、ライバルがバラを10本贈ったら、あなたは15本贈るのかい? そう思った時点で負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを見極めることが重要なんだ。
バラの本数、つまりスペックで張り合うのではなく、相手が本当に望んでいるものを捉えろ、という話だ。マーケティングで言う「顧客起点(相手が欲しいものから逆算する考え方)」そのものだ。
では、恋愛で相手が本当に望んでいる便益とは何か。僕の仮説は「安心」だ。年収が効くとしたら、それは数字そのものではなく「この人といれば生活の不安が減りそう」という便益に変換されたときだけ。外見が効くのも、清潔感が「この人はちゃんとしていそう」という安心に変換されるからだ。なぜ安心なのか、そして自信がなくても安心は届けられるという話は、余裕は自信の代替品に書いた。
機能は、便益に変換されて初めて価値になる。 変換されないスペックは、スペック表の中で眠っているだけだ。
選ばれるかどうかは「便益性×特異性」で決まる
ただし、便益があるだけでは、まだ足りない。
マーケティングでは、product(商品)の価値は大きく2つの軸で決まると考える。
- 便益性:その商品が相手にどんな良い事をもたらすか
- 特異性:それが他の商品では替えが効かないか
この2軸で4つのマスを作ると、商品の立ち位置が見える。

恋愛に翻訳するとこうなる。
- 便益性だけ高い男:「いい人なんだけどね」で終わる。優しくて気が利くのに選ばれない男は、左上のコモディティ(替えの効く、ありふれた商品)だ。もっと年収が高い「いい人」、もっと背が高い「いい人」が現れたら、比較されて負ける
- 特異性だけ高い男:「面白い人だけど、付き合うのはちょっと」。右下のギミックだ
- 選ばれ続けるのは右上:便益性と特異性が両方高い、ブランド化された男だ。「他の誰かじゃなくて、この人がいい」と思われる状態
婚活市場で年収や身長を比較されて疲弊する構図は、コモディティが価格競争に巻き込まれている姿そのものだ。機能の積み増しは、便益に変換されなければ無価値だし、変換されたとしても特異性がなければ、より高機能な他人との比較レースに放り込まれるだけなのだ。
では、特異性はどうやって手に入るのか。ここからがこの記事の本丸だ。
特異性はWhyからしか生まれない
マーケティングの世界に「ゴールデンサークル」という有名なフレームワーク(考え方の型)がある。サイモン・シネックが提唱したもので、人や組織の語る事を3つの階層に分ける。
- What:何をやっているか
- How:どうやってやるか
- Why:なぜやるのか(信念・価値観)
シネックの主張はシンプルだ。凡庸な組織はWhatから語り、人を動かすブランドはWhyから語る。
アップルは「コンピュータ」ではなく「革新」を売っている、とよく言われる。コンピュータという機能(What)だけなら、もっと安くて高性能な代替品がある。それでも特異なのは、Whyに共鳴したファンがついているからだ。特異性の源泉は、WhatではなくWhyにある。 機能はコピーできるが、信念はコピーできない。
さて、ここで面白い事に気づく。モテない人は、この法則を綺麗に逆走している。
- What:モテるためにどんなスペックが必要か?
- How:そのスペックをどうやってアピールするか?
- Why:(ここまで考えが及ばない)
心当たりはないだろうか。僕はあった。年収が上がれば勝手にモテると思っていた。お洒落にしていればモテると思っていた。格好良い所を見せれば——What、What、Whatだ。
自分が何を大事にして生きているのか。相手が何を大事にしているのか。そのWhyは、一度も考えた事がなかった。とんだ一人相撲だ。
Whatから積み上げた男は、どれだけスペックが立派でも、スペック表つきのコモディティにしかならない。Whyのない男に、特異性は宿らない。
怯えの正体は、架空のハイスペック男との脳内レース
What思考の何がまずいのか。スペック勝負は、他人との競争だという事だ。そして競争に参加し続ける限り、いつか負ける日が来る。
年収で戦えば、上には上がいる。外見で戦えば、上には上がいる。学歴も、身長も、話の面白さすら、どんな分野にも上位互換が現れる。これは悲観論ではなく、ただの構造の話だ。相対評価のレースには優劣がつく。そして参加費として、自尊心を払い続ける事になる。
ここで、冒頭の問いに戻ろう。美人を前にして、僕は一体何に怯えていたのか。
答えはこうだ。「この人はきっと、今までさぞハイスペックな男たちと付き合ってきたんだろうな」と勝手に想像して、その架空のハイスペック男たちと自分を比べて、勝手に負けていたのである。
冷静に文字にすると、かなり滑稽だ。実在するかもわからない男と、脳内で開催したスペック比較レースに、単独でエントリーして、単独で敗退している。目の前の彼女は、そんなレースの開催すら知らない。
これがWhat思考の正体だ。スペックという物差ししか持っていないから、あらゆる場面がスペック比較の場に見え、想像の中にすら上位互換が現れて、勝手に負ける。
モテない理由を「自信がないから」と内面のせいにする話は多い。でも僕の怯えの原因は、性格ではなかった。スペックという物差ししか持っていなかった事だ。 性格は変えにくい。でも物差しは、持ち替えられる。
だから、言いたい事は一つだ。
そのレースに参加しているのは、あなただけだ。とっとと降りよう。
レースから降りるというのは、諦めるという意味ではない。比較という土俵そのものから出る、という事だ。そして比較の外に出る方法が、ここまでに書いた特異性、つまりWhyを持つ事なのだ。「他の男より上か下か」ではなく「この人はこういう人」という、そもそも順位のつかない存在になる。ブランドが価格比較サイトに並ばないのと同じ理屈だ。
降りたあとにやる事:Whyを持ち、ニーズを汲む
じゃあ、Whyを持つとはどういう事か。
難しく考えなくていい。自分は何が好きで、何を大事にして、どう生きたいのか。「軸」を持つ事だ。行動原理と言ってもいい。それを自分の言葉で言えて、日々の選択がそれと繋がっている状態。それだけだ。「昨日の自分よりちょっとマシになりたい」も、立派なWhyだ。
愛されるブランドは、顧客に媚びない。 アップルは顧客アンケートの多数決でiPhoneを作った訳ではない。自分たちのWhyを貫いた結果、それに共鳴する人が集まった。人も同じで、相手に合わせて自分を曲げ続ける男は、一見「優しい」が、Whyが見えないので特異性がゼロになる。要は、コモディティになる。
ただし、ここは誤解してほしくない。「ニーズを汲む」と「顔色を伺う」は全くの別物だ。
- ニーズを汲む:相手が何を求めているかを深く理解した上で、自分の価値観で応える
- 顔色を伺う:自分の価値観を捨てて、相手の機嫌に合わせる
ジョブズの逸話(とされる話)も、ニーズを汲めという話であって、女性の言いなりになれという話ではない。優れたブランドは顧客を深く理解した上で、媚びずに自分の答えを出す。だから信頼される。
デートで言えば、相手の好みをちゃんとリサーチした上で、「ここ、好きだと思って選んだ」と自分の意思で店を決める。これがニーズを汲むという事だ。「どこでもいいよ、〇〇ちゃんの行きたいところで」は、優しさではなくWhyの放棄であり、相手からすれば「この人といても安心できない」というシグナルになる。
Whyを貫く事と、相手を深く理解する事。この2つは矛盾しない。むしろセットで初めてブランドになる。
そして、Whyが決まると、機能の磨き方も変わる。服も、肌も、髪も、「他の男に勝つため」ではなく「相手に安心を届けるため」に整えるものになる。同じ清潔感でも、目的が変われば磨く場所が変わる。見た目を便益に変換する具体的なやり方は、モテる服装とは?とスキンケアは投資効率が一番高いに書いた。
まとめ:磨くべきは機能ではなく、便益と特異性
モテない理由を調べると、欠点や内面の問題が並ぶ。でもマーケの目で見ると、原因はもっと手前にある。磨く方向と、戦う場所のズレだ。
- 年収・外見・学歴は「機能」。相手が求めているのは、機能がもたらす便益(その筆頭が「安心」)
- 選ばれるかどうかは「便益性×特異性」で決まる。便益性だけだと「いい人止まり」のコモディティになり、特異性の源泉はWhy(価値観)にある
- 美人に怯む正体は、架空のハイスペック男との脳内レース。参加しているのは、あなただけだ
性格は変えにくい。でも物差しは持ち替えられる。比較のレースから降りた瞬間、あなたは「誰かより上か下か」で測られる商品ではなく、「この人がいい」と指名される存在に近づいていく。
レースから、降りよう。
次に読む記事
あなたのモテない理由がどこにあるかで、次に読む記事は変わる。
- 自分のどこが弱いのか、まだ分からない → モテるってなんだろう。「売上の式」でモテを因数分解してみる。モテを6つの層に分けた全体地図から、自分のボトルネック(全体の足を引っ張っている一番弱い箇所)を見つけられる
- やっぱり、自信がない事が一番の理由だと思う → 余裕は自信の代替品。自信は持てなくていい。代わりに、後から増やせるものがある
- 見た目は磨いてきたのに、効いている気がしない → モテる服装とは?。服を「機能」ではなく「安心」に変換する考え方を書いた
※この記事の考え方を本格的に知りたい人には、2冊を勧める。顧客を深く理解する考え方なら、西口一希『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)。ゴールデンサークルの原典なら、サイモン・シネック『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』(栗木さつき訳、日本経済新聞出版社)。どちらも仕事にそのまま効く。


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